
アジア太平洋地域の風土や日々の生活から立ち現れる土着的な循環デザインの可能性を探究するプログラムCircular Design Week(CDW)。3年目となる今年は、京都と滋賀を舞台に、2025年11月19日から23日の5日間にわたり、『Responding in Time:風土から考えるインフラストラクチャリング』をテーマに開催しました。循環型社会へのシステミックな移行を実現する上で、「時間」はいかに捉え直すべきなのか。この問いに対し、CDW2025では現代の消費社会を支配する時計時間 (Chronos) ではなく、風土に流れる多元的な時間 (Kairos) へのアクセスを試みました。
特に、フィールドワークでは、ビジュアル/センサリー・エスノグラフィの世界的権威 Sarah Pink氏と、参加型デザインの専門家 赤間陽子氏をコラボレーターに招聘。「感応メソッド」という独自の手法を用い、風土を構成する存在たちとの関係性の中で立ち上がる時間との「調息 (attuning)」と「応答 (responding)」を探求しました。
フィールドワーク

Circular Design Week2025(CDW2025) Day 1〜Day 3では、京都と滋賀を舞台にフィールドワークを実施しました。3日間を通して感覚を研ぎ澄ましたのが「時間」。私たちの日々の思考や行動の多くは現代に浸透する「クロノス時間(時計時間)」に支配されており、それによって生み出される経済価値は近代的なリニア経済を維持してきました。しかしながら、クロノス時間に支配された経済活動は、主観的な時間感覚に基づく多様な営みを切り捨ててきたともいえます。私たちが循環型の経済モデルを実現しようとするとき、こうした価値観の前提を覆す「カイロス時間(主観的で質的な感覚に基づく多元的時間)」に向き合い直すことが重要な試みになるのです。そこで、本フィールドワークでは、クロノス時間から一歩距離を置き、微生物や動植物、地形、建造物、インフラ、機械など、「人間以後」の風土を織りなす無数の存在がもつ多元的な時間と調息(attuning)することが目指されました。

伏見は京都市の南端、緩やかな桃山丘陵の麓に位置し、宇治川・鴨川・桂川という三つの川に囲まれた、起伏に富む土地です。琵琶湖と京都盆地から涵養される地下帯水層を抱え、地下には琵琶湖に匹敵するほどの水量が蓄えられているとも言われています。いわば巨大な「水盆」なのです。この地下から湧き出す水は鉄分をほとんど含まない、やわらかくミネラルバランスの取れた水で、酒造りに理想的な性質をもっています。地名「伏見」には「隠れた水」という意味があるとも言われています。その名のとおり、伏見の地下には豊かな地下水脈が広がっており、これこそが伏見を酒どころとして発展させた最大の理由だったと言えるでしょう。

長浜は、日本最大の湖・琵琶湖の北東部に位置する地域です。琵琶湖は、およそ100万年前に堅田湖を前身として誕生し、長い時間をかけて東へと移動しながら北へ広がり、約40万年前に現在の姿になったとされています。以来、この湖は京阪神地域の重要な水源であると同時に、水運の要として周辺の人々の暮らしを支えてきました。また、多様な生態環境を内包し、魚類17種を含む62種もの固有種が生息するなど、母なる湖「Mother Lake」として親しまれています。冬に冷えた表層の酸素豊富な水が湖底まで沈み込み、湖全体の酸素量と水温が均一になる全層循環は「琵琶湖の深呼吸」と呼ばれ、年に一度深呼吸の観測が報道されると地域の人々は安堵すると言われています。

京都府中西部に位置する亀岡エリアは、丹波国の南端「口丹波」として、古くから京都へとつながる結節点の役割を果たしてきました。低山に囲まれた亀岡盆地と、そこを潤す保津川の水系が、この土地の風土の基盤を形づくっています。弥生期以来の稲作の歴史が示すように、水を引き、蓄え、分かち合う営みそのものが地域のインフラであり、人々の暮らしを支えてきました。

Day 3では、KYOTO Design Lab(京都市)にて「感応ブックレット(Kannō Booklet)」の制作ワークショップを行いました。参加者はDay 2の長浜・亀岡で感じたことをもとに、グループで一つのアウトプットを創出しました。完成したブックレットは「学びと共有の群島(Archipelago)」と呼ばれる形式で共有され、フィールドワークを通じた参加者一人ひとりの多元的な学びが互いに刺激を与え合いました。

Generative Archiveチーム|草野 孔希、平野 央、田房 夏波
今回の3日間のフィールドワークの中で目指されたのは、近代社会を支えてきた時計時間(Chronos)から、関係性の中で立ち上がる多元的な時間(Kairos)へと視点をずらすことでした。従来のプログラム設計では、フィールドワークの最後にグループで議論して一つの成果物に集約したり、一人のキュレーターや編集者が体験をまとめたりすることが一般的です。しかしそういったアプローチだけでは、個々人の文化的背景や社会的立場(Positionality)に由来する感覚や身体的なリズム、フィールドで生じる微細な違和感などにある「複数性(Plurarity)」がこぼれ落ちてしまう懸念がありました。

岩嵜博論 ストラテジックデザイナー / 武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科教授 / 大学院大学至善館 特任教授
マイクロバスで黒田の集落に到着したフィールドワークの一行は、黒田安念寺の観音堂に至る坂道を静かに登っていきました。ここ黒田の集落には、いも観音と呼ばれる戦国の戦乱を逃れ地中に隠されたことから、在りし日の姿を留めぬほどの形となった観音像が安置されています。観音堂に至る道は細く、両脇を杉の大木がそびえ、一行は参道の先にある小さな観音堂を目指したのでした。
カンファレンス

基調講演
Sarah Pink
モナシュ大学 特任教授 Emerging Technologies Research Lab FUTURES Hubディレクター

Session 1
若林 恵
黒鳥社 コンテンツディレクター
赤間 陽子
RMIT大学スクール・オブ・デザイン 准教授 Designing Entangled Social Innovation in Asia-Pacific (DESIAP) 共同リード
水野 大二郎
京都工芸繊維大学 未来デザイン・工学機構 教授 副機構長

Session 2
古川 理沙
私立新留小学校設立準備財団 共同代表
難波 美芸
鹿児島大学総合科学域総合教育学系 総合教育機構 グローバルセンター 講師
山崎 篤史
竹中工務店設計部 建築家
増井 尊久
株式会社リ・パブリック シニアディレクター

Session 3
赤間 陽子
RMIT大学スクール・オブ・デザイン 准教授 Designing Entangled Social Innovation in Asia-Pacific (DESIAP) 共同リード
川地 真史
一般社団法人Deep Care Lab 代表理事
Kok Yoong Lim
RMIT大学ベトナム校 スクール・オブ・コミュニケーション&デザイン准教授

Session 4
永田 宙郷
TIMELESS Inc. Planning Director
大倉 泰治
月桂冠株式会社 代表取締役副社長
曽 緋蘭
株式会社ROOTS 共同代表 ソーシャルデザイン
田村 大
株式会社リ・パブリック 共同代表

Session 5
稲谷 龍彦
京都大学大学院法学研究科 教授
小松 理虔
地域活動家
寺井 正幸
株式会社ごみの学校 代表取締役
水内 智英
京都工芸繊維大学 未来デザイン・工学機構 准教授

Session 6
寺田 匡宏
総合地球環境学研究所 客員教授
赤間 陽子
RMIT大学スクール・オブ・デザイン 准教授 Designing Entangled Social Innovation in Asia-Pacific (DESIAP) 共同リード
水野 大二郎
京都工芸繊維大学 未来デザイン・工学機構 教授 副機構長
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運営団体
Circular Design Praxis (CDP)は学術機関、企業、地域社会が連携し、システミックな変化を前提としたサーキュラー・デザインのためのアプローチを育み、実践するため、2022年に日本で発足した連合体。CDPは、土地の豊かさを出発点として認識し、多様な人々、背景、専門知識を持つ地域の集団のための実践の場を育成することを推進している。