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Session 4
永田 宙郷
TIMELESS Inc. Planning Director
曽 緋蘭
株式会社ROOTS 共同代表 ソーシャルデザイン
大倉 泰治
月桂冠株式会社 代表取締役副社長
田村 大(モデレーター)
株式会社リ・パブリック 共同代表
日本の伝統建築に使われる吉野杉は100年以上かけて育てられ、人間は木の成長や森林の生態系に合わせながら世代を超えて生業を引き継いできたと言われています。モデレーターの田村大氏(株式会社リ・パブリック)は、近代における「持たざる知恵」を前提としたリニア経済とは異なるこのようなビジネスの重要性を関西という土地で話すことに意義があると話します。本セッションでは、日本国内で数百年以上の長い時間を前提としたビジネスを実践する3名の事例紹介から、「時を超えたビジネス」について対話がおこなわれました。
永田宙郷氏(TIMELESS Inc.)は、アートやデザインに関わるなかで、クラフトの「異なる動きや要素を受け入れる行為」に魅了されてきたと自身の経験を振り返ります。「工芸」の語源は春秋戦国時代の「考工記」にすでに登場しており、それから約3000年の時を経て、人間はものづくりにおける風土や地形、歴史といった存在とのバランスを追求すべき時代に直面していると話します。
展示会「ててて」では、無理のない量を無理のない形でつくる中量生産的な選択肢を探索し、京都のデパートと協働した金継ぎのプロジェクトでは、欠点や弱点を愛するための方法を探索してきた。「リサイクル」「リメイク」といった物質的な循環ではなく、関係性の循環を目指すことの重要性が指摘されました。

永田 宙郷氏
曽 緋蘭氏(株式会社ROOTS)は、デザイン思考、工業デザイン、UI/UXデザインを実践する中でヒューマンセンタードデザインの限界に気づき、京都市北部の京北地域にある江戸中期の茅葺古民家に住む中で、里山には「ネイチャーセンタードデザイン」が既に存在していることを発見しました。茅葺き職人や林業家などの「ローカルウィスダムマイスター(地域の知恵の達人)」とともに、20年サイクルで茅場を管理し、半径3km圏内の素材による循環を実践しています。旅を「地域の入口産業」と位置づけ、「里山ジャーニー」と呼ばれる1日から7日間の研修プログラムや、海外と国内の職人による「ウィスダムエクスチェンジ(知恵の交流)」を運営。身体を通じて自然の一部であることを感じ、心と身体感覚が一致する体験から創造性を回復し、サステナブルなデザインを自分ごととして考えられる精神性を育むことの重要性が語られました。

曽 緋蘭氏
大倉泰治氏(月桂冠株式会社)は、京都の伏見で400年近く続いてきた酒造の歴史を紹介しました。伏見の地下には45億トンもの水が4〜5年で循環しており、月桂冠を含む伏見の酒蔵はその数パーセントを使っています。大倉氏はこの事実を「自然の大きな流れの中で少しだけ水を使わせていただいている」という感覚になったといいます。
神事と酒の関係など日本酒そのものの歴史にも触れつつ月桂冠の創業約400年の歩みを紹介し、科学技術の導入や時代に合わせた広告展開や時代に適合しチャンスをつかんできた戦略が現在につながっていると説明しました。最後に、48時間夜通し行われる麹作りの工程を紹介し、酒造りは微生物のために人間が働く「微生物センタード」な営みであることに言及。人間と微生物の関係性の視点から「手作りとは何か」という問いを投げかけました。

大倉 泰治氏
セッションの後半ではパネリスト3名がそれぞれの活動事例への感想を述べながらいくつかの論点が提示されました。例えば、永田氏や曽氏の活動に象徴される「中量的生産」に関する議論では、時代が「いつでもどこでも誰でも」といった均質性から「今、ここ、私」へと転換していることが示され、その土地でしか得られないものを文化を含めて創造することの意義が増していると話されました。
また、「身体性の獲得」という観点では、曽氏が里山で生活するなかで、都市的なマインドセットでは不協和音に感じていた「異なる価値観の共存」が理解できるようになったと話しました。異なる価値観の共存は単一のメロディーに周囲が合わせる「シンフォニー」というよりも多声的な「ポリフォニー」的であるとされ、環境に飛び込むことでポリフォニーの価値に気づいたと曽氏は話します。また、大倉氏は自身が酒蔵の長い歴史のなかで紡がれてきた価値観に馴染めているかわからないという感覚がある一方で、年中行事としての神事や仏壇へのお参りなど繰り返される習慣のなかでポリフォニー的な感覚を探索しているのかもしれないと語りました。

人間中心では説明できない事象にどのように気づくことができるか
このセッションでは、それぞれの実践者が異なる環境や文脈、位置付けにおいて、近代的なリニア経済とは異なる考え方やビジネスの在り方を模索しているという点が深い学びを提供していました。永田氏はものづくりにおいて異なる存在や要素、弱点を愛して受け入れる態度を強調し、曽氏は里山の中ですでに根付いていた、自然や知恵を中心とした循環的な営みを徐々に理解していったことを話し、大倉氏の酒造りの話では微生物や水脈といった存在に人間が合わせることでビジネスが成立していると語りました。
私は普段、京都で研究活動をする中で、自分自身にとってゆかりのある土地での実践が祖先や祖先の意思を中心にデザインが行われているという感覚をつかみました。リ・パブリックの増井氏、高坂氏が2024年に執筆した論文でも、「鰹節」という日本文化を象徴する食材を作るプロセスの中で長い時間をかけた菌の動きに人間が合わせていたという洞察が述べられました。このように、登壇者だけでなくこの記事の読者の中にも、「人間中心では説明できない状況」を見つけたことがある人もいるのではないでしょうか。
導入として田村氏から提示されたスチュアート・ブランド(1994)のペースレイヤリングは、「スピードの速い変化や技術革新を追うだけでは文明や社会は薄くなってしまう」ということを”頭で理解する”ために重要な知見といえます。しかし同時に、それが実際にどのように実践可能なのかを”身体で理解する”ためには、自らが「人間中心では説明できない状況」に身体性をもって出会い、時間をかけて浸透させていくプロセスが重要です。このことを踏まえると、私はこのセッションが京都という土地で開催されたことに意義があると考えています。CDWは、フィールドワークを通じて身体的に自分自身が感じたことをカンファレンスと結びつけていくことで深い学びを得ることができるということをあらためて感じたセッションでした。
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Brand, S. (1994). How buildings learn: What happens after they're built. Viking Adult.
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Okamoto, S., & Mizuno, D. (2024). Coexisting with ancestors – Elongating participation between "pasts" and "futures". In Proceedings of the Participatory Design Conference 2024: Exploratory Papers and Workshops - Volume 2 (PDC '24, Vol. 2, pp. 114–121). Association for Computing Machinery.
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Masui, E., & Kosaka, H. (2024). One thousand years of infrastructuring katsuobushi: Aligning temporalities within more-than-human entanglements. In Proceedings of the Participatory Design Conference 2024: Exploratory Papers and Workshops - Volume 2 (PDC '24, Vol. 2, pp. 147–152). Association for Computing Machinery.