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コラム 1

多元的な時間をどう集め、どう残すか –––「Reflection Notes」と「Generative Archive」の試み

Generative Archiveチーム

草野 孔希 平野 央 田房 夏波

取り組みの背景

今回の3日間のフィールドワークの中で目指されたのは、近代社会を支えてきた時計時間(Chronos)から、関係性の中で立ち上がる多元的な時間(Kairos)へと視点をずらすことでした。
従来のプログラム設計では、フィールドワークの最後にグループで議論して一つの成果物に集約したり、一人のキュレーターや編集者が体験をまとめたりすることが一般的です。しかしそういったアプローチだけでは、個々人の文化的背景や社会的立場(Positionality)に由来する感覚や身体的なリズム、フィールドで生じる微細な違和感などにある「複数性(Plurarity)」がこぼれ落ちてしまう懸念がありました。
多元的な時間は、トップダウンに定義されるものではなく、ボトムアップに立ち上がるものではないか。また、他者が何を感じどのように応答したかを参照することで、参加者にとっての新たな気づきや変容につながるのではないか。これらの仮説から、今回のツール設計は始まりました。

ツールの全体像

今回、実験的な試みとして用意したのが、LINEビジネスアカウントを活用した「Reflection Notes(振り返りメモ)」と、LINEで収集したデータとNotebookLMを活用した「Generative Archive(対話型アーカイヴ)」です。
一人ひとりが残した「個人としての振り返り」のテキストや画像データを生成AIに取り込み、利用者がインタラクティブに参照・探求できる対話型のアーカイヴを構築しました。

Reflection Notes:ボトムアップのための最小ツール

Reflection Notes(振り返りメモ)は、参加者が使い慣れたLINEを活用し、フィールドの隙間時間にスマートフォンから気軽に入力できる内省ツールです。正解はなく「考えすぎないで書く」ことを推奨し、個々人の「時間」の捉え方を、その人の言葉のまま残すための箱として用意しました。

設計した問いは下記の4つ。
・訪れた場所や状況を記述する「Situation」
・そこで起きた出来事を振り返る「Event」
・そのときに生じた感情や感応を扱う「Affect」
・そこから何に気づいたのかを問う「Insight」

LINEビジネスアカウントを活用し、ユーザーがメニューボタンからいずれかの問いをタップすると、自動応答の形で質問や入力例が表示されるよう設計しました。

LINEのビジネスアカウントはユーザーからの画像送信や音声入力にも対応しており、フィールドでの感覚をテキスト以外の形でもアウトプットできます。また、複数人のプロジェクトメンバーが管理・編集でき、ユーザーが入力した内容はCSVデータとしてダウンロードできる仕組みになっています。

Generative Archive:集めた声を「対話可能な形」で残す

ただし、集まった記録を編集すると、再び「まとめる人」の視点に回収されてしまい、当初の目的であった「複数性(Plurarity)」が担保できません。そこで次に構築したのが「Generative Archive(対話型アーカイヴ)」です。
LINE経由で入力されたテキストや画像データをダウンロードし、入力した個人が特定されないよう発言を抽出。同じ場所や体験を通して、異なる人がどのような振り返りをインプットしたか紐づけるため、入力者や入力日時、テキスト情報から、入力の背景にある場所や体験、見ているもの等を推定しました。
これらのデータをNotebookLMで読み込めるようにしたものが、Generative Archiveです。なお、データの加工にあたっては、ChatGPTやCursorといった他のAIツールも活用しています。

Generative Archive との対話の一例

このアーカイヴは、答えを提示するためのAIではありません。フィールドワークの参加者が、同じフィールドを歩いた自分以外の人の視点を参照すること、異なる声を並べて眺めることを可能にするツールです。個々の声を消さずに、複数の時間感覚が共存する状態を保つことを目指しました。

Generative Archiveは​こちら​ ​(26年12月末まで​アクセス可)

実践から見えたこと

実際にこれらを運用して見えてきたのは、振り返りが「プログラムの最後に行う作業」ではなく、フィールドでの体験そのものをより充実したものに引き上げ得るという点でした。何かしらの表現を促し続けることで、フィールドで何かを感じ取るアンテナや気づきを広げる手応えがありました。
参加者は、フィールドで体験した出来事の直後だけでなく、移動中や宿に戻った後、あるいは翌日以降にも入力していました。現場では言語化できなかった違和感や、時間差で立ち上がってきた感覚も多く含まれ、断片的で完結していない投稿も見られました。そういった通常は可視化されづらい表現が多く残ったこと自体が、今回のフィールドワークにおける多元的な時間のあり方を示していたように思います。
一方で課題としては、慌ただしいフィールドワークの渦中に、その時々の新鮮な反応を記録していく難しさがあります。ツール上の問いかけの単純化や、入力するタイミングをいつどのように設定するかなど、より良いあり方に改善できる余地が多々見えました。
この試みは、まだまだ発展途上です。重要なのはツールそのものよりも、個人の感覚やその背景を尊重しながら、それを集合的に参照可能にする設計思想にあります。今後さらに、フィールドワーク、参加型デザイン、教育・まちづくり・観光など、様々な現場の方と実践を共有し、みなさんと一緒に各地でトライアンドエラーを重ねられると幸いです。

本アーカイヴのライセンスについて

CDW25 Generative Archive © 2026 by Koki Kusano, O Hirano, Natsumi Tabusa, RE:PUBLIC Inc. is licensed under CC BY-NC-SA 4.0

本アーカイヴをご活用いただく際のお願い

本アーカイヴの有効性を検証し、今後の価値向上に役立てるため、このアーカイヴがどのように活用されるのかを把握したいと考えております。ワークショップや研究・教育活動等での利用にあたって事前の許諾は不要ですが、活用方法や成果について、事後に情報共有をいただけますと幸いです。皆さまの実践事例をフィードバックとして受け取り、本プロジェクトのさらなる発展に活用させていただきます。
【連絡先:cdw@re-public.jp

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